ボッカとロッカ

This is a work of fiction.

26

 猟銃を肩にかついだトムが、ハンドバッグを持ち去り消えて行く。

 ハルは全身を震わせて、言葉のようなものを口からこぼしていた。マーシャはハルの手に刺さったくさびを口にくわえると、土から抜き取った。それから後ろにまわり、首の背で押して、ハルの背中を持ち上げてやる。ハルは首を小刻みに震わせ、もう片方の手でくさびを握った途端、彼女の上下ともに晴れ上がりボールのような瞼の隙間から、涙が溢れ出た。マーシャはどっかりと腰を下ろした。彼女は、虚ろな瞳であらぬ方を見つめていた。ハルは絞り出すように、足の指を折られて、だの、殴りつけられて、だの、歩けなくて、注射を打たれだのと言うそのあいまあいまに、ごめんなさい、と言った。やがて大きく胸が上下し、吐き出すように、何度も何度も、ごめんなさい、とだけを言って、嗚咽した。そして突然気がついたように「わたしの背中、どうなってる?」と叫んだ。

 マーシャは瞬間、毛を逆立て、大きく息を吸い込んだ。そして震える声で、「あなた、なんにもわかっていない」と言うと、一粒の涙が毛の上を転がり落ちて行った。

 ごぼ、と、ハルの口からなにかが出た。ハルは、嗚咽し、また、ただ謝った。やがてハルが泣きつかれた頃、マーシャはゆっくりと身体を起こすと、両手の平をぺたり、ぺたりと地面に置き、腰を起こし、四つ足になった。ハルはその背を頼りに立ち上がり、ベンチに腰かけるようにマーシャに横座りをした。クマは妹を乗せ、枯れ葉を踏みしめ、ゆっくりと森の奥へと消えて行った。