ボッカとロッカ

This is a work of fiction.

20

 ロッカがダイニングルームを覗くと、ハルがテーブルに顔を突っ伏しているのが見えた。ロッカの気持ちは沈んだ。意を決して部屋に入り、着席する。ハルが顔をあげる。化粧がはげている。目の下が真っ黒だ。二日酔いなのかと思ったが、酒の匂いはしなかった。ハルはロッカを見ずに音を立てて立ち上がると、皿を出してシリアルを入れて、牛乳瓶をどんとテーブルに置いた。犬じゃないんだからさぁ…とつぶやいきながら、ロッカは自分でスプーンを取りに行く。口に頬張りながら、ハルがまったく台所から動かないことに気づき、今日は仕事は休みなのかと尋ねた。

「休み…」ハルの目はうつろだった。「そうね、休むわ」

「どっか具合悪いの?」

「べつに、大丈夫」

「明日には行けそうなの?」

「ちょっと当分休むわ」

ロッカの心臓がドキンと大きく打った。

「もしかして…ママ…」ロッカはおごそかにスプーンを置いた。ハルは顔をしかめ、食べるよう顎先で促した。その合図を無視し、つばをのみこむと、恐る恐る彼女は尋ねた。

「ママ、クマになり始めちゃった…?」

「はあ?」ハルは鼻で強く笑い、そんなんじゃないわよ、と吐き捨てた。

「ちがうの?」

「ちがうわよ」

「ほんとに?」

「しつこい」

「なんか眠そうだから」

「眠れなかったからよ、お願いだから黙って食べて学校に早く行きなさい」

「ただの二日酔い?」

「ロッカ」

「わかったってば」

ロッカはシリアルを全て口の中につめこんで立ち上がった。玄関扉を閉めるとき、テーブルに突っ伏す丸い背中が見えた。ロッカは扉に背を向け空を仰ぐと、思い切りそのさわやかな外気を吸い込み、身体の中に溜まった言葉になりそうな灰色のものたちを撒いた。これ、帰ってもこんな感じなの!?こんなのが、毎朝毎晩続くわけ!?ロッカは思わずタップを踏む。しんどい!というリズム。