ボッカとロッカ

This is a work of fiction.

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「あの人なんの用だったんだろう」座席の後ろから、アンが顔を覗かせて聞いてくる。

「だから、人探しって言ってたでしょ」

「誰を?」

知らないわよ。ロッカはイラついた。でもなんか、あの人、関わらないほうがいい感じ。身体が勝手に逃げ出したことを彼女は思い返す。

「あんたのおばさん、そんなに評判になるほどの占い師ってわけでもなかったのにね」

道が悪くなり、二人は上下に跳ねた。アンはなおもロッカにああだこうだと話しかけていたが、ロッカはまともに相手にしなかった。やがてアンが降り、何人かが降り、ロッカはバスに一人になる。運転士は、ロッカが話しかけてこないので、何度もバックミラーで彼女の存在、その様子を確認せずにはいられなかった。

 終点になり、窓の外に、つるっとしたあの頭が電球のように光って見えた。バスが停車するや否や、ロッカはステップを駆け下りる。 

 ボッカはそこにいた。

 今日も、前を見据えて動かない。ロッカも、そこから一歩も動かずに男から目を離せないでいた。清い。ロッカは心の中で強く思った。彼は、まるで、景色。彼自身でひとつの景色。ロッカは景色を堪能した。バスが折り返し準備を終え、ブザーを鳴らす。と、ボッカはロッカに近づいてきた。ロッカの心臓は、金属質のものに叩かれた。目の前で、立ち止まり、ロッカを見ている。隕石の衝突の瞬間って、こんなかんじ?ほとんど卒倒しかけていたロッカの目の前に、とどめのように、半分に折った紙が差し出された。

「私に?」

ロッカは人差し指で、紙と自分を交互に指す。ボッカは頷き、ふい、といつものように、バスの後方に向かった。ロッカのこめかみは脈打ち、頭痛がした。風が舞い起こって、バスは行く。手紙をもらう前の人生を乗せて去って行く。ロッカはベンチに倒れ込むように座ると、震える指先で、その薄青色の紙を、蝶の羽のように開いた。